日本の読解力は急降下している?なぜ?OECD学習到達度調査とは?
日本の読解力が急降下している。そんな話を耳にした事はありませんか。
そもそも急降下しているという情報はどこからきているのでしょうか。何人かの先生方はOECD学習到達度調査の結果を参考にされていました。
しかし、この調査結果に違和感を感じたので調べてみました。調べた結果、この情報だけでは、日本の読解力が急降下していると結論づけるのは難しいと言う考えに至りました。同情報を使用される方の参考になれば幸いです。
いずれにせよ読解力自体は重要です。読解力向上の方法はいくつもありますが、すぐにつく力ではありませんので、コツコツとつけていきましょう。
OECDとは
OECDとは「Organisation for Economic Co-operation and Development」の略で、経済協力開発機構のことです。 世界中の経済、社会福祉の向上を促進するための活動を行う国際機関で、1961年に設立されました。2021年時点で38か国が参加しています。
OECDの学習到達度調査とは
OECDは学習到達度に関する調査を行っています。この調査は、PISA(Programme for International Student Assessment)と呼ばれています。
この調査は義務教育修了段階の15歳の生徒を対象とし、読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの3分野について、3年ごとに調査を実施しています(2021年は新型コロナウイルス感染症の影響で延期)。各回で3分野のうちの1分野を順番に中心分野として重点的に調査している。
もちろん対象は日本だけではなく、2022年に実施された調査では、81か国・地域から約69万人が参加しているそうです。(※OECD非加盟国も調査には参加しています。例えば、上海・香港・シンガポール等が調査に参加しています。)
更に詳しい内容を確認したい場合は、文部科学省のページを参考にしてください。
では、執筆時点で最新のOECD2022の結果をみていきましょう。
OECD2022の結果概要
文部科学省・国立教育政策研究所
OECD生徒の学習到達度調査PISA2022のポイント
結果概要の通りですが、平均得点の長期トレンドは、OECD平均が下降しているのに対して、日本は平坦型です。少なくとも急降下しているとは言い難いです。
では、なぜ急降下していると言われているのでしょうか。
予想でしかありませんが、おそらく2018年の結果の一部だけを抜粋して、この考えに至ったのではないかと思います。
では、その問題のOECD2018の結果をみていきましょう。
OECD2018の結果
まずは三分野の結果は以下引用の通りです。
◆数学的リテラシー及び科学的リテラシーは、引き続き世界トップレベル。調査開始以降の長期トレンドとしても、安定的に世界トップレベルを維持しているとOECDが分析。
文部科学省・国立教育政策研究所
◆読解力は、OECD平均より高得点のグループに位置するが、前回より平均得点・順位が統計的に有意に低下。長期トレンドとしては、統計的に有意な変化が見られない「平坦」タイプとOECDが分析。
OECD 生徒の学習到達度調査2018年調査(PISA2018)のポイント
(黄色マーカーは筆者)
ここからは、日本の読解力が急降下している理由は見当たりません。
読解力のみの結果概要をみていきましょう。
文部科学省・国立教育政策研究所
OECD 生徒の学習到達度調査2018年調査(PISA2018)のポイント
確かに、前回2015年の調査結果と比較して平均得点が504点と低下しております。更には、順位も2012年4位、2015年8位、2018年15位と下がってきています。
おそらく、ここだけを切り取り、日本の読解力が急降下しているという結論に至ったのではないかと思っています。
しかし、これを急降下とするのは個人的には難しいと思います。なぜなら、次の問題点があるからです。
問題点
国順で評価
対象国は増減・変化します。OECDへの加盟国もそうですが、調査対象国自体も変化しています。調査対象数は、2018年は78か国、2022年は81か国です。単純に3か国増えているわけではなく、2018年に1位だった北京・上海・江蘇・浙江が調査されていません。他にも2018年に調査対象国だったロシア・ルクセンブルク・ベラルーシ等も調査されていません。
確かに、日本は上位に属しているので、上記の対象国が増減しても、順位が大きく変化はしません。
しかし、点数が少し変わるだけで大きく順位が変わります。例えば2018年だと、3点増えると4つ順位が上がります。逆に1点下がるだけで3つ順位が下がります。
この状況で順位の変化にあまり意味はないでしょう。
また、調査国が増減するので長期トレンドとしての平均点も信頼性はどれ程あるのでしょうか。
一部分を切り出して評価
評価全期間ではなく、ある一部分だけを伝えてしまうと、誤解を招くことになります。例えば、2012年~2018年は、4⇒8⇒15位と下降トレンドですが、2006年~2012年は、15⇒8⇒4位と上昇トレンドです。更に言うと、2015~2022年だと、8⇒15⇒3位と、また違ったトレンドです。
そもそも3年ごとの調査を、たった3回だけの調査でトレンドを割り出すことがナンセンスかと思いますが、伝える側が正確に伝えないと誤解を招きます。
2000年からの調査結果を全てのせた上で、国順位だけではなく、全体平均含めた点数も伝える必要があると思います。しかし、前項で説明した通り、その平均点も調査国の増減によって、どれ程信頼性があるのかに疑問です。
評価対象が限定的
評価対象者は15歳のみです。対象期間は6~8月となっています。
たまたま15歳の年齢が良い悪いという事もありえると思います。
各国によって受験シーズン前なのか後なのか色々でしょう。普段、勉強をしない学生もいるわけですし、対象期間が違えば、結果は少し変わるのではないかとも思います。
調査する予算や工数等も問題はあるでしょうが、15歳のみだけではなく、14~16歳に対象年齢を広げらたり、対象期間が変化することによる有意差が無いことが分かっていれば良いのではと思いました。
また、その国を評価する上で、厳密に対象の学生の基準は合っているのでしょうか。香港・北京・上海・マカオが別々の枠組みになっている事も疑問に感じます。
日本全体と東京・大阪などに限定するのとでは全く違うでしょう。
まとめ
OECDの学習到達度調査の結果から、2022年時点の日本の長期トレンドは平坦型である。
同調査結果「のみ」を用いて、日本の読解力等が急降下しているとは言えない。
同調査結果を使用する時は、国順で評価する事と調査対象範囲が限定されている事のリスクを理解する必要がある。